怪木蒐集家 FILE No.8
紅葉 ― 銘木商が遺した一枚
この一枚には、少しだけ私自身の思い出が重なっている。
若い頃、私はこの板を残した銘木商のお父さんと交流があった。
木を見る目の厳しさ、一本一本に向き合う姿勢。
短い時間だったが、多くを学ばせてもらった。
年月が流れ、お父さんは亡くなられた。
ある日、木にはまったく興味がないという息子さんから連絡をいただいた。
「父が残した木があるんです。」

倉庫で再会した木材の中に、この一枚は静かに眠っていた。
板の裏を見ると、一枚の古びた紙。
「耶馬渓 紅葉」
お父さんが貼ったままの札だった。
その文字を見た瞬間、この板には産地だけでなく、お父さんの記憶まで残されているような気がした。
譲っていただくことになったが、もちろん価値ある材に「縁だけ」は通用しない。
それでも、その値段よりも、「この木を託してもらえた」ことの方が私には大きかった。
磨きを重ねるたび、眠っていた杢がゆっくりと姿を現す。

やはり、お父さんの目に狂いはなかった。
こうして受け継いだ一枚は、福岡市のお客様のもとへ旅立っていった。
木は、持ち主を変える。
けれど、その木を見抜いた人の想いは、消えない。
あの古い札は、きっとその証なのだろう。

蒐集家記録
樹種: 紅葉(もみじ・カエデ)
状態: 大径材・耳付き・縮杢・長期乾燥材
第一印象: 板裏に残された「耶馬渓 紅葉」の一枚の紙が、この木の来歴を静かに語っていた。
産地: 耶馬渓(旧銘木札より)
入手経緯: 銘木商の遺した材を、その息子さんから託される。
仕上げ: 福岡の新たな暮らしの中で、一枚板カウンターとして第二の人生を歩み始めた。

