怪木蒐集家 FILE No.7
眠れる怪物 ― 挽かれぬ欅 ―
三年前。
木こりさんから一本の電話があった。
「とんでもない欅がある。見に来るか。」
現地に着いた瞬間、言葉を失った。
そこにあったのは一本の木ではない。
まるで山が倒れていた。
幹はもちろん巨大だった。

しかし、私の目を奪ったのは枝だった。
普通なら主役になるような太さの枝が、
この欅では、ただの枝として横たわっている。

一本一本が木になれるほどの太さ。
それを抱え込む幹は、一体どれほどの歳月を生きてきたのだろう。
「大きすぎて挽けん。」
木こりさんは少し苦笑いを浮かべた。
製材機に入らない。
運ぶことも難しい。
受け入れてくれる製材所も見つからない。

最高の材でありながら、
大きすぎるという理由だけで、
誰の手にも渡れない。
皮の下には、
まだ燃えるような赤身が眠っている。
この怪物は、
家具になることも、
一枚板になることもなく、
静かに次の出会いを待ち続けていた。
怪木蒐集家は思う。
価値とは、美しさだけではない。
「誰にも扱えない」ということさえ、この木の個性なのだ。
いつか、この怪物を受け止められる製材所が現れたとき、
その瞬間から、この欅の第二の人生が始まる。
私は、その日を見てみたい。
怪木は、必ずしも蒐集できるとは限らない。 それでも、出会ってしまった木は、一生、心の標本になる。
蒐集家記録
樹種:欅(けやき)
状態:超大径・根張り付き・超極太枝・製材待ち
第一印象:幹が怪物なら、枝はもう一本の大木だった。一本の欅ではなく、一つの森を見ているようだった
発見日:2023年1月某日

