怪木蒐集家 FILE No.6
名もなき四間の板 ― シオジ(推定)
それは、一本の来店から始まった。
「昔、製材所をやっていたんです。まだ木が残っているので、もし使えるなら見てくれませんか。」
穏やかな口調だった。
木の話をするその表情には、長い年月を木とともに生きてきた人だけが持つ、静かな愛情があった。
後日、木を見せてもらおうと連絡を入れた。
電話に出られたのは、奥様だった。
「主人は……先日、亡くなりました。」
しばらく言葉が出なかった。
そして奥様は、こう続けられた。
「主人も、木がまた誰かに使ってもらえるなら喜ぶと思います。どうか持っていってください。」
そうして出会ったのが、この一枚だった。

全長およそ四メートル。
埃をかぶり、長い眠りについていた板。

樹種もわからない。
いつ伐られ、どれほどの時間を過ごしてきたのかもわからない。
ただ、その姿には、不思議な重みがあった。
大きく割れ、耳は黒く変色し、誰にも顧みられず静かに時を重ねている。
けれど、鉋を入れるたびに、木肌の奥から柔らかな黄金色が現れた。

おそらく、シオジ。
派手さはない。
しかし、長い年月を黙って受け止めてきた木だけが持つ、静かな品格がそこにはあった。
そしてこの木は、リフォーム中だったお客様の下駄箱の天板として、新しい役目を得ることになった。

家族が靴を脱ぎ、出掛け、帰ってくる場所。
毎日、何気なく手を触れる場所。
製材所で眠りについていた木が、また誰かの暮らしの中で時を刻み始める。
もしかしたら、この木を託してくださったご主人は、その続きを見ていたのかもしれない。

怪木蒐集家は、木を集めているようでいて、時々、人の想いまで引き継いでいる気がする。
蒐集家記録
樹種:シオジ(推定)
状態:四間材・大割れあり・耳黒変あり・長期保管材
第一印象:埃の下に眠っていた無名の古木。その木目の奥には、一人の製材人が木に託した時間まで閉じ込められているようだった。
発見日:2024年10月某日

