怪木蒐集家 FILE No.9
栃(とち) ― 人を見て、木を選ぶ。
それは、一組のご夫婦との出会いだった。
まだ幼い息子さんを連れて、お店を訪ねてくださった。
「マンションを購入したので、ダイニングテーブルを探しているんです。」
新しい暮らしの始まり。
家族三人で囲む食卓。
その中心になる一枚を探していた。
一枚板のことは、よく分からない。
だから橋本さんに提案してほしい。
そう言っていただいた。
その言葉を聞くと、私は木ではなく、人を見る。
どんな暮らしをする人なのか。
どんな時間を重ねていく人なのか。
話をしているうちに、一枚の木が頭に浮かんだ。
栃だった。
奥さまは、白く柔らかな空気をまとっていた。
けれど、その眼差しには静かな強さがあった。
私は心の中で思った。
この人は、栃に似ている。

奥さまは、色白で柔らかな雰囲気をまとっていた。
けれど、その奥には一本芯の通った強さを感じた。
その印象が、不思議なくらい栃という木と重なった。
乳白色の木肌。
優しく、静かな表情。
それでいて、何十年という歳月を生き抜いてきた強さを、その内側に秘めている。
「このご家族には、この木だ。」
そう思った。

左右の耳には、美しい縮杢が揺れている。
光を受けるたび、その表情は静かに変わる。
中央には、飴色へと変化した杢。
そして一本の天然の割れ。
傷ではない。
この木が生きてきた時間そのものだった。
風に揺れ、
雨に打たれ、
雪に耐え、
長い年月を生き抜いてきた証。
だから私は、この個性を消そうとは思わなかった。

完成したダイニングに栃が納まった瞬間、不思議と以前からそこにあったような空気になった。
きっと、このテーブルにはこれからたくさんの時間が刻まれていく。
朝ごはんを囲む何気ない時間。
息子さんの誕生日。
入学の日。
家族で笑い合う休日。
十年後には、この木にも家族の思い出が刻まれているのだろう。
私は思う。
木を選ぶということは、家具を選ぶことではない。
その家族の未来を選ぶことなのかもしれない。
だから今日も、人を見て木を選ぶ。
それが、私の目利きだ。
価値は、価格では決まらない。
木も、料理も、人との出会いも。
その価値を届けることが、私の仕事です。
怪木蒐集家 橋本展洋
蒐集家記録
樹種:栃(とち)
状態:縮杢・耳付き・中央に飴色へと変化した杢
第一印象:白い静けさの中に、揺るぎない強さを秘めた一枚。
入手経緯:マンション購入を機に、一枚板を探されていたご家族へ提案・納品。
仕上げ:ダイニングテーブルウレタン塗装。

